Tuesday, December 16, 2025

うどんの国の水はどこへ流れるのか 2000年代後半

うどんの国の水はどこへ流れるのか 2000年代後半

香川県のうどん店排水規制は、思いつきの行政措置ではなく、2000年代前半から積み重ねられてきた調査-技術開発-制度改正の流れの中で形づくられていった。2008年前後はその転換点にあたり、水質汚濁防止法では規制されない小規模事業場が環境負荷の大きな割合を占めていることが明らかになり、行政が本格的に動き始めた時期である。

水質汚濁防止法では、1日の排水量が50トン未満の施設は規制対象外となっていた。しかし香川県の調査では、有機汚濁の約3割がこうした小規模事業場に起因することが判明し、抜本的な対策の必要性が浮上した。こうした背景から、県は2004年度に研究会を設置し、うどん製造業の排水実態を調査。ゆで汁や洗浄水に含まれる澱粉質が高濃度の有機排水となり、河川や水路に負荷を与えることが確認された。これを受け、製造工程での対策や排水処理技術をまとめた「うどん店排水処理対策マニュアル」が作成され、県内に広く周知されることとなる。

制度面では、旧「香川県公害防止条例」が「香川県生活環境の保全に関する条例」へと改称-改正され、2009年には小規模事業場を対象とする独自の排水規制が導入された。排水量が1日10トン以上の事業所に対し、排水処理の義務付けが設定され、2012年4月からの本格施行に向けた3年間の猶予期間が設けられた。この枠組みの中で示されたTOC160mg/Lという基準値は、実験データに基づき、うどん店排水でも現実的に達成可能とされた数値である。

一方で、設備導入費用の問題は深刻であった。県の想定では300万円程度が導入可能額とされたが、実際に流通していたうどん店向け排水処理施設は400万-600万円帯が主流で、小規模店の負担は重かった。このため、行政は工程内での打ち粉回収やゆで湯の管理など、設備導入に頼らない負荷軽減策も併せて提示し、さまざまな店舗規模に対応できる対策体系を整備していった。

香川県にとって、うどんは単なる食品産業にとどまらず、観光-地域文化-日常生活を貫く基盤である。そのため、瀬戸内海という閉鎖性海域の環境保全と、地域文化としてのうどんの継続は切り離せない課題となった。今回の排水規制強化は、海を守るための環境政策であると同時に、地域文化が持続可能な形で存続するための制度設計でもあったと言える。

No comments:

Post a Comment