黒霧の市――ブラックビジネス化する中国ネットの十年(二〇〇〇年代初頭〜二〇一〇年代)
二〇〇〇年代初頭、中国のネット空間はまだ荒削りながらも透明さを残した frontier だった。ネットカフェが若者の新しい共同体となり、黒客と呼ばれる初期ハッカーたちは、技術的探求と自由な相互交流を通じて純粋な知的遊戯を楽しんでいた。国家の監視は今ほど強くなく、法制度も追いついておらず、匿名性が好奇心と創造性を後押ししていた。彼らは世界の動きに指を触れ、技術そのものを通じて自己を形作ろうとしていたのである。
しかしその空気は、わずか十年でまったく別の相貌を見せる。二〇一〇年前後には、ネットの急速な普及、大量の未整備な個人情報、脆弱な企業サーバー、IT教育の遅れといった社会的要因が重なり、ネット空間は裏取引と個人情報売買が渦巻く巨大な闇市場へと変貌した。銀行口座の洗料、SNSアカウントの大量売買、スパム業者の台頭、企業情報の密売……黒客たちの掲げた理想は、巨大な利益を狙う犯罪組織に呑み込まれていった。
古参ハッカーたちはこれを精神の喪失と呼ぶ。彼らの時代には、技術力は誇りの証であり、侵入の成否は腕前の象徴だった。しかし後続世代にとって、ハッキングは金を生む手段となり、技術そのものを語る文化は急速に薄れた。国家も市場もこの変質を止めなかった。むしろ、法制度の未成熟とセキュリティ軽視の社会風土が、悪意の蔓延を容易に許したのである。
百度の過去レポートや清華大学の研究が示すように、この時期、違法取引市場の規模は爆発的に拡大し、中国ネットは黒霧の市と化した。純粋な探求心で始まった文化が、巨大な闇に飲み込まれるまでの十年、それは社会の急成長と制度の未整備が生んだ、時代の落差の証でもあった。
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