焼け跡に朱の灯 1945-1955 帳元の娘が語る行商と商売の誇り（戦後復興期）

焼け跡に朱の灯 1945-1955 帳元の娘が語る行商と商売の誇り（戦後復興期）
戦後間もない日本で、帳元の娘が語る家族の人形行商は、生活のための商いであると同時に、誇りを賭けた営みだった。配給が不安定で物資が欠乏するなか、家族は季節に応じて扱う品を替え、夏は造花やほおずき、冬は人形を売って生計を立てた。父は人形の出来に納得できない時には売り子に立つことを避け、金を得る以前に職人としての矜持を優先した。その慎みは、粗悪なものを世に出さないという戦後の厳しい暮らしの中で培われた倫理でもあった。母は値切りの多い客にも品よく応じ、売り手と買い手の関係を壊さないことを選ぶ。縁日や市は娯楽の場であると同時に、人情と信頼が交差する生活の場であり、商いは一度きりでは終わらない関係の積み重ねだった。この語りには、闇市や露店が復興期の流通を支えた時代
背景とともに、家族それぞれが担った役割と誠実さが重なって描かれる。人形を売る行為の背後には、焼け跡の街で生き抜くための知恵と、祭り文化に寄り添う静かな誇りが確かに息づいていた。