Wednesday, December 17, 2025

岩礁の海に光を呼び戻す REAL ブロックの物語 2000年頃

岩礁の海に光を呼び戻す REAL ブロックの物語 2000年頃

一九八〇年代末から九〇年代にかけて日本の沿岸では磯焼けが静かに進み海藻が群れ立っていた岩礁の景観は急速に失われていった。黒潮の蛇行や海水温の上昇栄養塩の減少ウニ類の異常増殖さらに沿岸開発による地形改変が複雑に絡み海藻の着生を支える環境が崩れていった。磯焼けは単なる海藻の喪失にとどまらず稚魚が隠れ育つ場所を奪い漁獲量の低下や沿岸生態系の脆弱化を招いた。

二〇〇〇年代に入ると国は藻場と干潟の再生を重点政策として掲げ水産庁や環境省が各地で実証事業を進めた。その中で注目された技術の一つが人工的に岩礁環境を再現する REAL ブロックである。REAL とは Reef Enhancement for Algal Life の略称とされ海藻が自然に着生し生育するための微地形を人工構造物によって整える思想を持っていた。自然岩礁の表面には無数の凹凸があり胞子が流されずに留まる細かな陰影が存在する。REAL ブロックはその特徴を再現し表面粗度を調整し光の当たり具合や潮流の速度が適度になるよう形状が設計された。

海藻の初期着生が成功するにはほんの数ミリ単位の凹みや影が重要になる。またウニが侵入しにくい隙間を作ることで食害から若い海藻を守る工夫も施された。複数のブロックを組み合わせることで水流に変化が生まれ小型の甲殻類や貝類の定着も促され結果的に小さくても多層的な生態系が形成される。このように REAL ブロックは海藻だけを対象とした技術ではなく海の基盤構造を回復することを目指した生態工学的試みであった。

WEB 公開情報でも北海道の寿都湾や三陸沿岸北陸や山陰の日本海側で REAL ブロックを含む藻場造成が広く行われた記録が残る。環境省の藻場干潟再生プロジェクト二〇〇五年頃からの報告書ではホンダワラ類の再生や稚魚の増加といった効果が複数海域で確認されている。また近年では藻場が CO2 を吸収するブルーカーボンとして注目され藻場造成技術は気候変動対策の一環としても扱われている。

REAL ブロックは人工物を自然の代用品として押し付けるのではなく自然が自ら力を取り戻すための起点をそっと提供する技術であった。海の回復は一夜にして進むものではなく潮の満ち引きや季節の光がゆっくり働き続ける環境が必要である。REAL ブロックはその時間の流れに寄り添いながら海藻の森が静かに再生される舞台を整える役割を果たし続けている。

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