Sunday, March 23, 2025

「静かなる滝の壁」―船橋に降る光の浄化力 - 2001年3月

「静かなる滝の壁」―船橋に降る光の浄化力 - 2001年3月

千葉県船橋市で2000年から2001年にかけて実施された、二酸化チタン(TiO₂)を含む光触媒塗料を用いた大気浄化実験は、都市における新たな環境対策として全国的に注目を集めた。塗装されたビル壁面に太陽光が当たることで光触媒反応が起こり、大気中の窒素酸化物(NOx)を酸化・分解する仕組みである。

この実験では、船橋市内のビル壁面50平方メートルに塗装を行い、1年間の観測で1平方メートルあたり2.57gのNOxを除去する効果が確認された。換算すると、ガソリン車1600台が1km走行して排出するNOxと同等量を処理できる計算になり、都市部の大気浄化策としての実効性が示された。

この取り組みの珍しさは、自治体主導で都市の壁面における光触媒の大気浄化効果を実際に可視化し、定量評価したことにある。それまで研究室での理論や実験にとどまっていた技術が、街角の壁に降り注ぐ光と共に機能し始めた。まるで無音の滝が、排ガスの影を洗い流すかのように。

さらに、NOx除去量を「自動車排出量に換算」して説明した点は、市民へのわかりやすい環境啓発として優れており、科学と社会の距離を縮める試みにもなっている。

この「光の滝」は、都市を蝕む見えない公害に対して、静かに、しかし確実に効果を示す。今後、公共施設や都市空間への応用が進めば、環境と景観が調和する新たな都市像を切り拓く技術となりうる。

【関連情報】
この実験に関する詳細な調査結果は、千葉県資源循環推進課の公表資料に記載されており、実験面積・NOx除去量・評価手法・今後の技術的展望などが詳しく報告されている。

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