Wednesday, March 5, 2025

「九州最後のツキノワグマ――祖母・傾山系の静寂」- 2001年6月

「九州最後のツキノワグマ――祖母・傾山系の静寂」- 2001年6月

大分県と宮崎県の県境に広がる祖母・傾山系は、かつて九州唯一のツキノワグマの生息地とされていました。しかし、1987年に大分県で捕獲された個体を最後に、確実な生息証拠が確認されず、2012年には環境省のレッドリストで「絶滅」と公式に分類されました。

この地域では、江戸時代から明治にかけてツキノワグマが狩猟対象となり、特に昭和初期には毛皮や薬用目的で乱獲が進みました。戦後には個体数が大幅に減少し、1970年代以降は目撃情報が散発的に報告されるのみとなりました。1987年には祖母山周辺でツキノワグマが捕獲されましたが、その後の公式記録はほとんど残されていません。

特筆すべきは、1987年に捕獲された個体の遺伝子解析により、本州から持ち込まれた可能性が示唆された点です。これにより、九州在来のツキノワグマはそれ以前に絶滅していた可能性が高いとされています。

それにもかかわらず、今でも地元住民の間では「祖母山にはクマがいる」という伝承が語り継がれています。近年も足跡や食痕のような痕跡が報告されることがありますが、科学的な裏付けは得られていません。環境保護団体の一部は、祖母・傾山系の奥地にクマがひそかに生き残っている可能性を示唆しており、今後の調査が期待されています。

ツキノワグマが絶滅したとされるこの地域は、現在、国定公園として保護されており、ニホンカモシカやヤマネなどの希少な動物が生息しています。かつての生態系の主役であったツキノワグマは消えましたが、その痕跡は山深い谷や森の中に今も静かに息づいているのかもしれません。

【関連情報】
- 「WWFジャパン ツキノワグマ保護レポート(2012年)」
九州のツキノワグマの絶滅が公式に認定された背景や、今後の環境保全策について言及。
- 「哺乳類科学(J-STAGE)ツキノワグマの生息記録調査(2000年)」
祖母・傾山系でのクマの生息証拠の検討、1987年の捕獲記録に関する考察。
- 「森林総合研究所 九州におけるクマの遺伝子解析(2010年)」
1987年に捕獲された個体が本州由来の可能性を示唆し、九州固有のクマがすでに絶滅していた可能性を示す研究報告。

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