Monday, May 12, 2025

風を待たずに歌え――上條恒彦と『出発のうた』の時代(1971年〜)

風を待たずに歌え――上條恒彦と『出発のうた』の時代(1971年〜)

1970年代初頭。高度成長の熱に浮かれながら、若者たちは不確かな未来を見つめていた。そんな時代に、上條恒彦の声は鋼のように響いた。喫茶店の片隅から始まり、キャバレーを経て、彼は舞台に立ち続けた。そして『出発のうた』が彼を世に知らしめる。NHK『みんなのうた』で流れたこの曲は、別れと門出の交錯を真っすぐに歌い上げ、多くの人の胸に刻まれた。だが上條は、売れたからといって流されない。「月に10本が限界」と語り、テレビより舞台を選び続けた。「神風タレント」と呼ばれても、彼は風を待たずに歩き出した。その背中に映っていたのは、芸能界の流れとは異なる、表現者としての矜持だった。テレビが大量消費の時代へと突入するなか、上條の歌声は今もなお「生」の力を宿している。彼はただ、歌うため
に生きていた。

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