Saturday, May 10, 2025

眠れる電流に忍び寄る影 中国の侵入と米国電力網の十年 2009年から2023年

眠れる電流に忍び寄る影 中国の侵入と米国電力網の十年 2009年から2023年

アメリカの電力網が中国によって侵入されたという事例は、実際にいくつか報告されています。最も注目されたのは2009年、ウォールストリートジャーナルが報じた事件で、アメリカの電力網に外国のハッカーが侵入し、システムに妨害プログラムを仕掛けていた痕跡が見つかったというものです。情報当局は、中国やロシアの国家支援型グループが関与していると見ており、即時的な被害はなかったものの、将来的なサイバー攻撃への布石として強く警戒されました。

2012年にも、ノースカロライナ州レイリー地域を含む複数の電力会社に対して、フィッシングやネットワーク探索行為が仕掛けられ、中国発と見られるIPアドレスからのアクセスが報告されました。この時も直接的な被害は確認されませんでしたが、侵入経路を確保し、監視を行っていた痕跡がありました。

さらに、2020年末に明るみに出たSolarWinds事件では、主にロシア系のハッカーによる大規模侵入が話題となりましたが、中国のハッカーグループも並行して活動していたことが分かっています。電力インフラが直接の標的ではありませんでしたが、電力関連企業も被害範囲に含まれており、国家主導の広範なサイバー活動が展開されている現実が浮き彫りになりました。

そして2023年には、アメリカ国家安全保障局やFBIが発表したVolt Typhoon作戦が注目を集めました。これは中国政府支援のハッカーが、アメリカ本土の通信、電力、水道といった重要インフラに対して潜伏的な侵入を行い、緊急時の妨害工作の準備を進めていたというものでした。このグループはマルウェアを使わず、既存の管理者用ソフトウェアを利用するLiving off the land戦術を用いており、発見を難しくしていたのが特徴です。ハワイを含む太平洋地域が主な標的とされ、有事の際に即時妨害が可能となるようネットワークに足場を築いていたと報告されています。

これらの事例から、アメリカの電力網やインフラが、中国を含む国家支援型のハッカー集団によって戦略的に狙われていることは明白です。現在までのところ、実際に停電を引き起こしたような被害事例は報告されていませんが、サイバー偵察や戦時の電撃行動を念頭に置いた潜伏が続いており、アメリカ政府は国家安全保障の最重要課題の一つとしてこの脅威に対応しています。

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