Tuesday, May 13, 2025

沈黙する大陸、響く炭素の足音――CO2の4割はアジアから(2007年11月)

沈黙する大陸、響く炭素の足音――CO2の4割はアジアから(2007年11月)

2007年、世界の二酸化炭素(CO2)排出量は、かつてないほど重たく、そして静かに地図を塗り替えていた。
この年、日本エネルギー経済研究所が発表した報告書は、環境問題に敏感な者たちの背筋を静かに凍らせた。

「アジアのCO2排出量は、2030年には世界の43%を占めるだろう」――。

これは単なる統計予測ではない。
それは、20世紀型の西洋主導の産業社会から、アジア新興国の経済的覚醒へとパワーシフトが進むことを意味していた。
そして、その成長が、気候変動という地球規模の問題にどう影響するのか、明瞭な数値となって突きつけられたのだ。

報告書によれば、2005年時点でアジアのCO2排出割合は36%。
だが、わずか25年後には43%に跳ね上がる。
そのうちの約7割を中国とインドが占めるという。
つまり、アジア全体の環境行動が、世界の炭素収支を大きく左右する時代が到来するのである。

思い出してほしい。
この年、中国は「世界の工場」として完全に名実ともに世界経済の中枢に躍り出ていた。
北京五輪を1年後に控え、鉄鋼・セメント・化学製品の生産は過去最高を記録。
その裏で、内モンゴルでは大型の石炭火力発電所が次々に稼働し、黄河沿いには自動車工場が林立していた。

インドもまたIT・製薬産業を軸に躍進。
ムンバイの証券取引所には米ドルとルピーが交錯し、都市にはエアコンとバイクが溢れ出した。
その快適さの代償として、電力需要が膨らみ、老朽火力発電所の煤煙は空へと舞っていた。

日本や欧米諸国では、1997年の京都議定書の精神がかろうじて息づいていた。
だが、その一方で、排出量全体は、静かに「アジア」へと移行していた。
欧州は2020年に向けて再エネ比率を高め、北米でもエネルギー効率改善が進んでいた。
だが、それは「排出の絶対量」を減らすのではなく、「排出源を移動させる」ことでもあったのだ。

日本国内では、「技術立国」の矜持から、省エネ技術や排出削減システムの輸出がさかんに叫ばれていた。
ハイブリッド車、高効率ボイラー、太陽光パネル、断熱材、そしてスマートメーター。
だが、その技術の供給が、アジア全体に対してどれほどのインパクトを与えるのか、政府も企業も明確な戦略を持ちきれていなかった。

「環境ビジネスは、日本がアジアに果たすべき義務である」
そう唱える声がある一方で、
「環境規制は、成長への足かせだ」と切り捨てる開発途上国の論理も根強い。

静かな争い。
それは、GDPの桁の裏で、炭素が語る物語だった。

日本の立ち位置は、そこにある。
かつて排出した側としての歴史、そして抑制した技術としての現在、その両方を携えて。

CO2の4割はアジアから。
それは未来ではなく、すでに始まっていた21世紀の主語の交代だった。
そしてそれに気づいた者だけが、次の答えを語る資格を持つことになる――。

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