Thursday, May 15, 2025

「記憶を盗む選挙術――ケンブリッジ・マスマティカとFacebookの闇」―2018年春

「記憶を盗む選挙術――ケンブリッジ・マスマティカとFacebookの闇」―2018年春
ケンブリッジ・マスマティカは2013年に設立されたイギリスの政治コンサルティング会社である。表向きはビッグデータと心理分析を駆使して選挙戦略を練る企業だったが、その実態は世論操作と心理誘導を武器に民主主義の根幹を揺るがす手法を持ち合わせていた。背後には心理作戦の経験を持つSCLグループが存在し彼らはやがて世界の注目を集める存在となる。

転機は2018年、Facebookからの個人情報不正流用事件が発覚したことで訪れた。発端は「thisisyourdigitallife」という無害を装ったアプリであった。これはケンブリッジ大学の心理学者アレクサンダー・コーガンによって開発され、Facebookユーザーに性格診断を装ってアクセスし本人だけでなくその友人のデータまでも吸い上げていた。このアプリを使用したのは約27万人に過ぎなかったが結果として最大8700万人分の個人情報が収集されたとされている。Facebookの当時の仕様がこの情報流出を可能にしてしまった。

この膨大なデータはケンブリッジ・マスマティカによって性格や信念、感情の傾向などを分析する材料となり、そこから一人ひとりに最も効果的な政治広告が作成された。移民、銃規制、宗教、国家への恐怖。こうしたテーマが巧妙に組み合わされ有権者は知らぬうちに恐怖や希望を刺激されながら票を投じる方向へと誘導されていった。

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグはアメリカ議会に召喚され失われた信頼と向き合うこととなる。社会的な批判は激しく同社の株価は急落。Facebookはデータ規約の強化と外部アプリの制限などの対策を講じた。だが時すでに遅く多くの人々が自分の「心の地図」が勝手に描かれていたことを知り衝撃を受けた。

一方ケンブリッジ・マスマティカは内部告発者クリストファー・ワイリーの証言によって一気に追い詰められる。彼の告白は表の広告代理店の仮面を剥ぎ裏で何が起きていたのかを明らかにした。会社は2018年に破産しその短いが濃密な活動に終止符を打った。

この事件はただの企業スキャンダルではない。それはSNSという現代の公共空間における「記憶の取引」と「感情の操作」がどれほど現実を変えてしまうかを世界に示した。情報は武器となり個人の無自覚なクリックが未来の選挙をも変えてしまう。私たちがこの出来事から学ぶべきことは情報の自由がもたらす危険と責任、そして透明性なき技術の暴走に対する警戒心である。

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