「記憶を盗む選挙術――ケンブリッジ・マスマティカとFacebookの闇」―2018年春
2018年、世界を揺るがした一大スキャンダルが明るみに出た。英国の政治コンサルティング会社ケンブリッジ・マスマティカがFacebook上で最大8700万人に及ぶ個人情報を不正に取得し、それを選挙操作に利用していたという事実である。SNSが選挙を左右し感情をあやつる時代。その象徴として人々の記憶に刻まれた事件だった。
発端は心理テストを装ったアプリだった。ユーザーがアプリを使用すると、その人の情報だけでなく友人のデータにもアクセスできるFacebookの仕様を利用し、数百万人の詳細な個人データが吸い上げられていった。名前、趣味、思想傾向、交友関係——それらが無断で企業の手に渡り、選挙広告の材料として使われたのである。
ケンブリッジ・マスマティカはこのデータをもとに「マイクロターゲティング広告」を展開した。有権者の不安や怒りを狙い撃ちし、移民、治安、国家への脅威といったテーマで情動を煽る広告をSNS上にばらまいた。トランプ陣営の選挙戦でもこの手法は効果を発揮したと言われている。
Facebookは当初、問題の存在を把握していながら公表を遅らせ、結果として世論の信頼を失うことになった。CEOのマーク・ザッカーバーグはアメリカ議会に呼ばれ、事態の責任を問われた。企業の倫理と透明性が世界的な焦点となり、SNSの構造そのものへの批判が高まった。
一方ケンブリッジ・マスマティカは内部告発者クリストファー・ワイリーの証言によって暗部が明らかとなり、同年には破産に追い込まれた。情報はもはや中立の道具ではなく意図的に操られる武器となる。私たちは無意識に差し出した「クリック」の代償と向き合わねばならない時代に生きているのだ。
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