環境 「廃棄物ではない」の虚構―リサイクル偽装をめぐる攻防 2002年
2002年当時、日本の廃棄物行政を揺るがせた大きな課題の一つが「廃棄物ではない」との偽装問題でした。産業廃棄物処理の現場では、業者が本来処理すべき汚泥や廃プラスチックを「リサイクル原料」と称して野積みし、適正処理を回避する手口が横行していました。これは処理費用を削減するための典型的な環境犯罪であり、最終的には不法投棄や環境汚染につながる事例が全国で頻発しました。
背景には、バブル崩壊後の不況によるコスト圧力と、2000年施行の循環型社会形成推進基本法の下で急速に拡大したリサイクル制度との矛盾がありました。制度の未成熟を突いて、「資源か廃棄物か」を巡る線引きが不明確な状態が続いたのです。このため中央環境審議会は、「不要物であるリサイクル可能物も廃棄物として扱う」という定義の拡大を提言し、悪質業者の抜け道を塞ごうとしました。
しかし、この方針に経済産業省や産業界は猛反発しました。彼らは「有価物まで廃棄物扱いされれば、健全なリサイクル流通まで阻害される」と主張し、リサイクル資源市場の萎縮や回収システムへの悪影響を懸念しました。つまり、環境省が安全性確保を優先する一方で、産業界は市場原理と資源循環の柔軟性を守ろうとする対立構造が浮き彫りとなったのです。
この議論の背景には、1999年に発覚した青森・岩手県境不法投棄事件など、大規模な環境犯罪が相次いだ社会情勢がありました。数十万トン規模の不法投棄が「リサイクル」の名の下で正当化されていた事実は、廃棄物と資源の境界がいかに曖昧であったかを示しています。
結果的に、廃棄物の定義を拡張する方向はその後の法改正につながり、「廃棄物偽装」への規制は強化されました。この一連の攻防は、日本の廃棄物行政が「抜け道の規制」と「健全な市場形成」の狭間で揺れ動いていた時代を象徴しているのです。
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