除草剤と蝶の衰退―米国農業の変容と生態系への代償
米国における除草剤グリホサート(商標名ラウンドアップ)の大量使用は、1990年代半ばに遺伝子組換え耐性作物(ラウンドアップ・レディ品種)が導入されたことを契機に一気に拡大した。大豆やトウモロコシ、綿花といった主要作物に耐性を持たせることで、農家は雑草管理を容易にし、生産効率を飛躍的に高めることができた。しかし、その背後では昆虫や植物の多様性が大きな打撃を受けていた。
時代背景として、1980年代から90年代にかけて米国農業は「効率化」と「グローバル市場競争力」を至上命題とし、バイオテクノロジー企業と化学メーカーが一体となって遺伝子組換え作物を普及させた。国際市場での収益性を高める一方で、農薬依存型の農業モデルが強化され、エコロジーより経済合理性が優先されたのである。
この過程で影響を受けた代表例がオオカバマダラ(モナークチョウ)である。幼虫が唯一食草とするトウワタは、以前は畑や周縁に普通に生えていたが、グリホサート散布によってほとんど根絶され、幼虫の生息環境は壊滅的に失われた。これにより1990年代以降、北米全域で個体数は急減し、渡りを行う大群の姿は年々縮小している。
また、近年の研究では、グリホサートがミツバチの腸内微生物叢を乱し、病原体への抵抗力を下げる可能性が示唆されている。授粉を担うハチ類にダメージを与えることは、農業生産そのものを逆に脅かす「自己矛盾」とも言える。
2000年代に入ると、除草剤耐性雑草が出現し、農薬の使用量はむしろ増加した。これは「農薬使用削減」の約束に反し、農業が薬剤依存の悪循環に陥っていることを示す。国際的には持続可能な農業や有機農法への転換が提唱されたが、大規模農業を基盤とする米国では依然としてグリホサートの使用は広範囲に及ぶ。
除草剤と蝶の衰退は、単なる環境問題ではなく、20世紀末から21世紀初頭にかけての農業政策・企業戦略・消費社会の在り方を映し出す鏡である。効率化の陰で見過ごされた生態系の損失は、持続可能性を問う時代の深刻な課題となった。
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