ママはライバル(1972〜)――少女漫画とテレビが描いた"家庭と女性のゆらぎ"の時代
「ママはライバル」は、忠津陽子(作画)と佐々木守(原作)による少女漫画で、のちに大映テレビ制作・TBS系で連続ドラマ化された作品である。物語の主人公は白バラ学園に通う女子高生・早乙女ジュン。パイロットの父と二人暮らしで「パパがいれば十分」と思っていた彼女の前に、転校生の美少女・青海マリが現れ、「あなたのパパと結婚するために上京してきた」と宣言する。同級生でありながら"ママ候補"という異常事態のなか、ジュンはマリと家庭内外で張り合うことになる。
テレビドラマ版は1972年10月から1973年9月まで、毎週水曜19時30分-20時にTBS系で放送され、全52話。主演は岡崎友紀で、『おくさまは18歳』などに続くライトコメディシリーズの第3弾として位置づけられている。制作は大映テレビで、純アリス、高橋悦史、富士真奈美らが共演し、主題歌も岡崎友紀が歌ってヒットした。
この作品が生まれた1970年代前半の日本では、少女漫画が"心情文学"として大きく飛躍し、恋愛だけでなく、家族、自己実現、ジェンダーの葛藤を扱う表現が増えていた。その背景には、ウーマンリブ運動に象徴される女性解放の動きと、核家族化・都市化の進行に伴う家庭像の変化がある。母と娘が同じ男性をめぐって競い合うという極端なギャグ設定は、一見すると軽いラブコメだが、「母親も一人の女性である」という視点と、「娘も"いつか母になるかもしれない女性"である」という二重の立場を同時に浮かび上がらせる仕掛けになっている。
父親をめぐる三角関係は、従来の"献身的なママと素直な娘"という役割分担を笑いのうちにズラし、母親像の固定観念を軽く揺さぶるものだった。学校では同級生としてぶつかり合い、家に帰れば「ママ」と「娘」として同じ屋根の下に暮らすという構図は、家族という制度の枠組みを少し外から眺めさせる装置でもある。テレビドラマとしてお茶の間に流れたとき、この軽妙なドタバタは、当時の視聴者にとって、自分たちの家庭やジェンダー観を無意識に相対化するきっかけになったと考えられる。
つまり「ママはライバル」は、少女漫画とテレビドラマが手を組み、1970年代の"揺れ動く女性像"と"再編されつつある家庭"を、笑いとロマンスの形式で包み込んだ作品だったと言える。
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