Sunday, November 30, 2025

塩素を使わない“無塩”漂白技術(1990年代・大昭和製紙)

塩素を使わない"無塩"漂白技術(1990年代・大昭和製紙)
1990年代、日本の製紙産業は公害対策の次の段階として、化学物質による水質汚濁の低減や環境負荷を抑えた生産体制への移行を迫られていた。特にパルプ漂白において使用されていた塩素ガスや次亜塩素酸は、AOXやダイオキシン類を排出する原因として国際的に問題視され、欧米ではECFやTCFといった塩素を使わない漂白への転換が進んでいた。日本でも環境基準の引き上げが求められ、大昭和製紙はこれに応じる形で非塩素型漂白技術の開発に取り組んだ。
同社が導入した"無塩漂白技術"は、従来の塩素系薬品を一切使わず、酸素漂白、オゾン漂白、過酸化水素漂白を段階的に組み合わせることでパルプを白色化する方式である。オゾンなどの高反応性薬品を用いることで効率よくリグニンを分解し、有害副生成物を最小限に抑えることに成功した。この結果、排水の環境負荷は大幅に低減され、工場周辺の河川環境保全にも直接的な効果をもたらした。
さらに、無塩漂白の導入は単なる薬品の置換にとどまらず、パルプの前処理から反応温度や圧力の管理、排水処理設備の改善まで含めた工程全体の見直しを必要とし、製紙プロセスの高度化を促す契機にもなった。大昭和製紙がこの技術を工業用紙ラインに実装したことは、企業の環境対応を象徴する取り組みとして高く評価され、日本の製紙産業が持続可能な生産モデルへ移行する上で重要な役割を果たした。

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