Sunday, November 30, 2025

低品位スクラップを鉄原料に変える新型電炉(1990年代・NKK)

低品位スクラップを鉄原料に変える新型電炉(1990年代・NKK)
1990年代の日本の鉄鋼業は、バブル崩壊後の景気低迷に直面しながら、国際的な環境規制の強化や国内のリサイクル政策の進展を受け、資源循環を前提とした製造プロセスの確立が急務となっていた。当時問題となっていたのは、鉄含有率が四〇%前後しかない低品位スクラップの扱いである。建設解体くずや家電スクラップには不純物が多く、銅・錫などの混入が鋼材品質に悪影響を及ぼすため、従来の電炉ではエネルギー消費が増え、歩留まりも低下するという課題があった。
こうした状況の中でNKKが開発した新型電炉技術は、スクラップ予熱、酸素富化燃焼、高度な精錬制御を組み合わせることで、低品位スクラップでも効率的に溶解し、鉄原料として再生することを可能にした点に特徴がある。排ガスの熱を利用した予熱方式により省エネ性能が向上し、不純物の影響を抑える精錬工程の改善によって、従来難しかった雑多なスクラップの安定処理が実現した。
この技術は、鉄鋼リサイクル率の向上や廃棄物削減に寄与しただけでなく、スクラップを単なる低価値資源ではなく、高付加価値材料の原料に戻すアップグレード型の循環技術として注目された。大量生産から資源循環へ向かう鉄鋼業の構造転換を象徴するものであり、日本の製鉄業が環境対応と生産効率を両立させるための重要な技術的基盤となった。

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