Sunday, November 30, 2025

日本鋼管の溶接ヒューム除去装置(1990年代)

日本鋼管の溶接ヒューム除去装置(1990年代)
1980年代から1990年代にかけて、日本の製鉄業では公害対策が進んだ一方で、作業環境における微細粒子問題が新たな課題となっていた。溶接作業で発生する溶接ヒュームは金属が高温で蒸発し、冷却されて再凝結することで生じる微粒子で、吸入すると肺障害や金属ヒューム熱の原因となるため、国際的にも労働衛生上のリスクとして注目されていた。従来の換気ではヒュームの拡散を十分に防げず、製鉄所の広い屋内空間では局所的な対策が不可欠とされていた。
この背景の中で、日本鋼管は溶接ヒュームを発生源付近で直接吸引し、フィルターやサイクロン方式で効率的に除去する装置を開発した。溶接トーチ近くに吸引ノズルを配置することで作業者が粉じんを吸い込む前に捕集でき、粉じん濃度を大幅に低減した。また局所排気方式は大空間全体を換気する方式に比べて省エネ効果が高く、作業環境改善とエネルギー削減の両面でメリットがあった。工場外への微粒子拡散抑制にもつながり、労働安全だけでなく地域環境保全にも寄与した点が重要である。
1990年代以降は国際的にPMが健康リスクとして議論され始め、日本鋼管の技術はその潮流に先駆けたものであり、安全衛生と環境保全を同時に実現する産業技術として評価されている。

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