上海における水質汚染への取り組みと課題 - 2020年代
2020年代に入り、上海市の水質汚染問題は依然として深刻です。特に、黄浦江、蘇州河、および長江などの主要河川が工業排水の影響を受けており、飲料水供給と住民の健康に大きな影響を与えています。上海市政府は、これらの河川の汚染源を特定し、企業による排水処理の強化を進めています。
まず、上海宝山鋼鉄株式会社(Baosteel)は、上海の北部を流れる長江の沿岸に位置しており、鋼鉄製造プロセスで発生する廃水が問題視されてきました。同社は長江への排水を管理するため、排水処理施設の更新に約50億人民元(約850億円)を投じ、新しいフィルタリングシステムと有害物質除去技術を導入しました。このプロジェクトは、長江の水質保全に寄与し、河川への重金属排出量の削減を目指しています。
一方、上海石油化学株式会社(Shanghai Petrochemical)は、金山区の工場で黄浦江への排水に対する改善措置を進めています。この工場では、カドミウムや鉛を含む廃水の処理が行われており、約30億人民元(約510億円)をかけて処理能力を強化しています。また、新しい化学処理技術を導入し、有害物質を低減することで、黄浦江の水質を改善し、流域の住民への影響を軽減することを目指しています。
さらに、上海市は、蘇州河沿いにAIを活用したリアルタイム水質モニタリングシステムを導入しています。蘇州河は上海市内を流れ、黄浦江と合流する主要な水路で、工業および家庭排水による汚染が長年の課題です。このシステムでは、複数の水質センサーが蘇州河に設置され、化学物質の異常な濃度が検出されると即座に警告が発せられます。これにより、市政府は迅速に対応を行い、違法排水の取締りを強化しています。
上海市政府は、地元環境NGOや住民と協力し、環境教育や啓発活動も行っています。上海環境NGO(Shanghai Environmental NGO)は、市民が水質汚染問題に関心を持ち、環境保護活動に参加するよう支援しています。黄浦江や長江の沿岸地域では、住民が汚染源の監視やデータ収集に参加することで、地域全体の環境意識を高める取り組みが行われています。
とはいえ、上海周辺の農業地帯での汚染水利用による土壌汚染は依然として問題です。特に、奉賢区や崇明区での農地では、灌漑水を通じて重金属が土壌に蓄積し、食の安全への懸念が高まっています。上海市政府は、新しい環境保護法の制定と罰則の強化を通じて、地域全体の水質保護と環境保護の強化を目指しています。
No comments:
Post a Comment