Monday, May 12, 2025

薩摩の循環協奏――2007年、焼酎かすと豚が結んだ静かな契約

薩摩の循環協奏――2007年、焼酎かすと豚が結んだ静かな契約
2007年当時、日本は「循環型社会」の構築を国家戦略の一部として掲げていた。とりわけ地方では、地元資源を最大限活用する「地域内資源循環」への関心が高まっており、その象徴的な事例のひとつが、鹿児島県の大口酒造協業組合と養豚業者の協働に見られた。
鹿児島といえば芋焼酎の本場。だが焼酎製造の裏には、必ず「焼酎かす」という副産物が大量に残る。この廃液はかつては産業廃棄物として処理され、コストと環境負荷の両面で頭を悩ませる存在だった。
ところが、大口酒造はこの焼酎かすを、近隣の養豚業者にすべて供給するというシステムを確立する。しかも、単に渡すだけではない。養豚農家のタンクの空き具合を見て、酒造側が焼酎の生産量を"調整"するという、柔らかな相互配慮の連携が成立していた。
養豚業者にとっては、焼酎かすを飼料に加えることで、餌代の節約と肉質の改善という二重の利得がある。とくに、豚の脂身に風味が乗ると評判で、「焼酎を飲んで育った豚」という物語性も市場での差別化要因になっていた。
この関係には、明文化された契約よりも、地場産業同士の信頼と互恵精神が色濃くにじんでいる。「うちのタンク、今日はいっぱいだから、もう少し控えてくれんか」「ほんなら、蒸留を来週に回そうか」――そのようなやりとりが言葉に出るまでもなく成立する関係性。地域の気候、リズム、そして人の感覚に根ざした"循環型経済"が、ここでは確かに息づいていた。
一方、これは国の制度設計がまだ追いついていなかった時代でもある。2007年の食品リサイクル法改定では、焼酎かすのような副産物の再資源化が注目されるものの、全国的なシステム整備には課題が残っていた。だからこそ、制度の外側で、地域が静かに生み出した「経済的合意」は、環境政策の現場における希望の光となっていた。
この事例は、単なる「廃棄物の再利用」にとどまらず、人と人、産業と産業の間にある無言の了解――地域文化に根ざしたサステナビリティの一つの形だったのである。

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