Wednesday, July 30, 2025

データ・ブローカーによるSNS情報の商用利用 ― 可視化される個人、売買される日常

データ・ブローカーによるSNS情報の商用利用 ― 可視化される個人、売買される日常
2000年代後半から2010年代にかけて、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の爆発的な普及により、人々の「行動」がかつてないほどデジタルに記録される時代が到来しました。Facebook、Twitter、InstagramといったSNSでは、何を「いいね」したか、何をシェアしたか、どの広告をクリックしたかといった些細な行動さえも、貴重な「心理的資源=パーソナルデータ」として蓄積されていきました。

この時代背景において急成長したのが、「データ・ブローカー」と呼ばれる情報仲介業者です。彼らはSNSをはじめとする様々なウェブサービス上のデータを収集・加工し、企業に向けて販売することで莫大な利益を上げました。たとえば、ユーザーの「いいね」傾向や投稿履歴から性別・年齢・学歴・政治志向・性的指向までも推定可能であることが、2013年ごろから心理学研究の成果としても知られるようになりました。

その代表例が、2018年に大きく報じられた「ケンブリッジ・アナリティカ事件」です。Facebook経由で集められた数千万件に及ぶユーザーデータが、個人の知らないところで心理分析に用いられ、選挙戦略に組み込まれていたという事実は、世界中に衝撃を与えました。この事件は、民主主義に対する新たな脅威として注目され、「SNSは無料で使えるが、その代償は『あなたの人格』だ」という言葉が現実味を帯びたのです。

同時に、こうしたデータの利用は犯罪捜査やマーケティングの「精密誘導弾」としても用いられ、特定の層を狙い撃ちにする広告(マイクロターゲティング)や、警察によるリスク予測(予測ポリシング)などにも転用され始めました。

しかしこの構造には、深刻なプライバシー侵害のリスクが内包されています。SNSユーザーの多くは、自分の「いいね」や投稿が実際にどう収集され、どう利用されているかを理解していません。しかも、これらのデータは個人の知らないところで「匿名化されずに」売買されているケースも多く、消費者保護法が追いついていない状況でした。

2010年代にはEUで「一般データ保護規則(GDPR)」が制定され、データ利用に透明性と管理権をもたせる動きが進みましたが、アメリカや日本などでは法制度の対応が遅れ、商業的なデータ利用が優先される傾向が続きました。

このように、SNSは人々をつなぐ場であると同時に、「感情と傾向の見本市」として機能し、データ・ブローカーという第三者によって個人情報が無自覚のうちに収益化される社会が形成されていったのです。

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