気候に追われるアジアの巨人たち――バングラデシュ・中国・インドの人口移動リスク(2050年推計)
2050年に向けて、南アジアと東アジアでは、気候変動が引き起こす人口の大規模な移動が現実味を帯びてきています。なかでも注目すべきは、バングラデシュ・中国・インドの三国です。これらの国々は、人口がきわめて多いだけでなく、海面上昇・干ばつ・猛暑・洪水といった複合的な気候災害に直面しており、その社会的脆弱性が大規模移動を引き起こす条件を備えています。
まずバングラデシュでは、国土の約3分の1がすでに海面上昇や地盤沈下によって水没の危機に瀕しています。特にデルタ地帯に広がる低地は、サイクロンの襲来や高潮被害とともに、恒常的な洪水に悩まされています。今後のシナリオによれば、最大で1億3千万人が住まいを失う可能性があり、これは国の総人口のほとんどに等しい数字です。バングラデシュ国内には移住先となる高地が乏しく、すでにインドやミャンマーとの国境では、移民対策や国境警備の強化が始まっています。
中国では、5億人が移動リスクの圏内にあるとされます。これは人口の約3分の1にあたる規模で、特に大都市の沿岸部――上海、広州、天津など――が海面上昇や台風、塩害の影響を受ける見込みです。加えて、内陸部では黄河流域の水不足や干ばつが深刻化しており、気候危機と経済発展の不均衡が地域格差をさらに拡大させると懸念されています。中国政府は「生態文明」政策の名のもとに巨大な森林再生プロジェクトや内陸への産業移転を進めていますが、それは未だ人口の大移動には追いついていません。
インドは、さらに深刻な事態を抱えています。最大で10億人――つまり国民の大半が移動を余儀なくされるという推計は、ただの予測ではなく、農業依存型社会と水資源の枯渇、極端な猛暑、モンスーンの不安定化という現実に根ざした警告です。特にガンジス川流域では、氷河の融解と水の奪い合いが始まっており、気候難民の発生はすでに一部地域で進行しています。ヒマラヤからベンガル湾に至る巨大な流域社会は、政治・経済・宗教が交錯する複雑な構造を持ち、その移動は国内問題にとどまらず、周辺国を巻き込む国際的な危機へと発展する可能性があります。
2020年代には、これらの動きはすでに予兆として現れていました。気温の上昇、降水パターンの変化、農業収量の減少、都市部への過密移住――いずれも人びとの「選択ではない移動」を促しており、2050年の風景はその延長線上にあると考えるべきです。アジア最大の三国が、同時に気候危機による人口移動という未曾有の試練に直面する未来。それは、政治的意思、国際協力、そして人間の尊厳が問われる世紀の挑戦でもあります。
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