静謐の品格のゆくえ 司葉子 ― 小津の色彩と高度成長の気配のなかで(一九五〇〜一九六〇年代)
司葉子(一九三四年生まれ)は、戦後の復興が安定し、高度経済成長が加速するなかで登場した東宝を代表する女優である。彼女の静かな知性と理知的な美しさは、戦前の原節子の"慎ましき女性像"を受け継ぎつつも、より現代的で自立した気配を帯びていた。小津安二郎の『秋日和』(一九六〇)で原節子演じる母の娘役を務め、親世代への敬慕と新しい女性の自立心を柔らかく演じ分けた。続く『小早川家の秋』(一九六一)では、家族の絆と世代の価値観のずれを調和させる知的な役どころを演じ、その節度ある姿が観客に深い印象を残した。黒澤明『用心棒』(一九六一)では百姓の妻"ぬい"を演じ、暴力の世界に人間のぬくもりを注ぎ込んだ。中村登『紀ノ川』(一九六六)では、三代を生き抜く女性の気品と誇りを体
現し、ブルーリボン賞などを受賞した。
同時代の淡島千景が温かみと市民的感情を、司葉子は節度と理知を、岡田茉莉子は自立と知性を、岩下志麻は情念と官能を担っていた。司はその中間に位置し、過剰な感情を排して均衡を保つ"都会的品格"を象徴する存在となった。彼女の演技は、声を張らずに倫理を語るような静けさで、戦後日本が求めた"穏やかな強さ"の理想を映していた。
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