〈舞台に棲む思想――吉本隆明と芸人の体制性〉-1970年代
1970年代、日本社会は高度経済成長の終焉とともに、価値観の漂流期を迎えていた。学生運動の敗北、連合赤軍事件の衝撃、オイルショックによる生活不安。そうした中で、「反体制」は流行語のように扱われ、芸能界でも「体制批判」が売り文句になる。だが吉本隆明は言う。「芸人の反体制思想には意味がない」。それは、芸人がそもそも「体制の中に根ざす存在」だからだと。
彼にとって芸人とは、制度社会の潤滑油、悲哀と滑稽を操り、共同体を弛緩させる存在だった。彼らの芸は、制度の外からではなく内側でこそ光る。むしろ、体制を生きながら「内側からズラす」ことで、芸は初めて思想たり得る。制度の中に立ち、制度を壊すふりをしながらも制度を生かす――その逆説にこそ、吉本の芸人論の本質がある。
この洞察は、今日の表現者に向けた問いでもある。「お前の言葉は本当に、制度を超えているか?」と。
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