Saturday, November 8, 2025

高容量化と低コスト化が進む水素吸蔵合金

高容量化と低コスト化が進む水素吸蔵合金
水素吸蔵合金は1960年代後半にオランダのフィリップス社がニッケル・ランタン合金を、米国のブルックリンヘブン国立研究所がチタン・鉄合金をそれぞれ発見したのが始まりです。金属が水素と反応して金属水素化物になることは古くから知られていましたが、吸蔵量が少ない上、高温にしないと水素を放出しないため、第2の金属を加えて合金にし、低い温度でも水素を放出できるように改良されました。

水素吸蔵合金の種類

水素吸蔵合金には、主に以下の3つのタイプがあります:

マグネシウムとニッケルの合金
レアメタル(希土類)のランタンなどとニッケルの合金
鉄とチタンの合金
これまでに約500種類の水素吸蔵合金が発見され、それぞれの組成によって水素の貯蔵量や吸収・放出条件が異なるため、取り扱いやすい合金の研究が進められました。また、コスト低減を狙ってレアメタルの混合体であるミッシュメタルや、ランタンを多く含むランタンリッチ・メッシュメタルを利用した合金も開発されました。

水素吸蔵合金の課題

従来の水素吸蔵合金では、重量比で約2%程度の水素しか貯蔵できず、十分な水素量を供給するためには大量の水素吸蔵合金が必要となり、設備が大型化しコストも高くなります。WE-NETでは、水素吸蔵合金の開発目標として「100度C以下で重量比3%の水素を吸収・放出するもの」を掲げており、国際エネルギー機関(IEA)でも「重量比6%」の達成を目指しています。しかし、水素の放出条件が400度C以上と高温であったり、吸放出サイクルが短いなど、性能面での課題が多く残されています。

フッ化水素吸蔵合金

工学院大学の須田精次郎教授らの研究グループは、水素吸蔵合金にフッ素処理を施すことで表面にフッ化膜を形成させ、不純物の混入による効率低下を防ぐ技術を開発しました。フッ化膜は水素しか通さないため、高純度な水素だけを吸蔵することができます。この技術を利用して、従来品よりも水素貯蔵能力が高く、吸蔵時の温度が低い新合金が開発されました。

新合金には、ニッケルとアルミニウムをベースにしたものと、ニッケル系合金にマグネシウムを加えたものの2種類があります。これらの合金はレアメタルを含まないため、コストが低減されます。フッ素処理により、カルシウムを加えた合金はレアメタル系の1.4倍、マグネシウムを加えた合金は約6倍の能力を持ち、水素の吸蔵条件は40度C、10気圧以下と低いです。

多層ナノ構造の新合金

マツダと広島大学、広島県立西部工業技術センターは、従来の水素吸蔵合金とは異なる原理で、2~3倍の水素を吸蔵・放出する新合金を開発しました。この新合金は、半導体の製造に用いられるスパッタリング法を使い、パラジウム薄膜とマグネシウム薄膜を重ねた多層ナノ構造を持ちます。ナノ構造の金属に積極的に欠陥を導入することで、水素の吸蔵・放出の機能が向上します。

三層構造では、100度C、0.1メガパスカルの水素圧力で、重量比5.6%の水素を吸蔵し、100度C以下で放出することが確認されました。さらに多層化することで吸収量は変化しないものの、放出温度が低下し、7層では90度C以下にまでなりました。

炭素素材

最近注目される素材として、炭素原子が直径100万分の1ミリメートルの筒状につながったカーボンナノチューブがあります。吸蔵合金と同様に温度調整により水素を吸蔵・排出しますが、名城大学の飯島澄男教授は、筒の構造を工夫することで最大重量比2~3%の水素を吸収できる見込みを立てています。

水素吸蔵合金の新たな用途

水素吸蔵合金は、携帯機器や自動車の二次電池以外にも、ヒートポンプとしての利用が進められています。水素吸蔵合金には水素を吸蔵する際に発熱し、放出時に吸熱する特性があり、この特性を利用してエネルギーを効率的に利用する試みが進められています。

このように、水素吸蔵合金の技術開発は、エネルギー効率の向上やコストの低減に寄与し、今後のエネルギー供給の革新につながる可能性があります。

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