アルゴリズムによる奈落――瞬時に崩れる市場の肖像 2010年〜2016年
それは人間の判断を挟む暇もない、電子が主役の崩落だった。2010年5月6日、米国株式市場を襲ったフラッシュクラッシュ。ダウ平均株価はわずか5分で約1000ドル急落し、直後に回復した。投資家たちは言葉を失い、市場からは約1兆ドルの時価総額が一時的に蒸発したとされる。引き金は、ある大口ファンドによるS&P500先物への大量売り注文だった。それを自動で処理したアルゴリズムが、制御不能な売りを繰り返し、高頻度取引(HFT)の応酬が流動性を奪った。価格形成の秩序は崩壊し、数百の銘柄が1セントで約定する異常事態となった。
そして2016年10月7日、英ポンドにも同様の異変が襲いかかる。アジア市場の薄明かりの中、通貨はわずか2分で6%も下落。Brexit交渉の不透明さと、市場参加者の少なさを見計らったかのように、アルゴリズム取引が再び暴れた。数億ドル規模の損失が報告され、金融市場はまたしても「見えない手」に蹂躙された。
フラッシュクラッシュ――それは、速度が理性を超える時代における、新たな恐怖の名前である。いくら価格が戻っても、消えた信頼と資産は戻らない。アルゴリズムが引き起こす奈落は、いまも電子の奥底で静かに牙を研いでいる。
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