Wednesday, December 10, 2025

福島第一原発と福島第二原発をつなぐ10キロの闇 道が消えた夜に現場が見た絶望(2011)

福島第一原発と福島第二原発をつなぐ10キロの闇 道が消えた夜に現場が見た絶望(2011)
福島第一原発と福島第二原発の距離は北へわずか10キロ。普段であれば国道6号を使い車で20分も走れば到着できる近さである。しかし2011年3月11日の大地震はこの短い距離を一瞬にして隔絶した。道路は隆起し陥没し街灯はすべて消え信号も沈黙し国道6号は通行不能となった。何でもない日常の道が災害によって存在しないも同然の距離として立ちはだかった。
第二原発から第一原発へ向かった職員たちは通常では使われない細い生活道路をたどり車がすれ違えないほどの真っ暗な道を瓦礫を避けながら進んだ。周囲には建物が軋む音が残り余震が絶えず大地を揺らし海から押し寄せた津波の痕跡は冷たく光っていた。彼らの世界はヘッドライトの照らす範囲だけでありその先に何があるのかは誰にも分からなかった。
この10キロの移動は原発事故対応において不可欠だった。第一原発では1号機と3号機が深刻な状態にあり第二原発も外部電源喪失の危機にあった。だが現場の連携を支えるはずの近距離は災害によって断ち切られ職員の移動そのものが命を賭した行為に変わった。
当時の日本社会も混乱のさなかにあり通信や情報は途絶えがちで状況把握は困難だった。政府事故調の公開記録にもこの区間の道路状況が極めて悪かったことが証言として残っている。
たった20分の道が巨大な壁となり10キロが果てしない距離に変わる。暗闇に向かって走った職員たちが抱いた緊迫と恐怖は書類には残らないが福島第一原発事故の背景を理解する上で欠かせない現実である。

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