重く波打つ刻-速度の揺らぎが編む時間のずれ(1890年代)ベルクソン「時間と自由」
ベルクソンが言う持続とは、時計で測られる均質な時間とは異なり、意識の内部で重層的に流れ続ける生きられた時間である。そこでの速さや遅さは、物理的速度から独立した質的経験であり、注意、感情、記憶などによって伸縮する。物理速度は距離と時間を同時に測定する数量的定義だが、主観的速度は持続の密度とリズムによって揺れ動くため、同じ物理速度でも「速く感じる」「遅く感じる」現象が起こる。心理学や神経科学の研究では、恐怖や集中時に時間が長く感じられる"主観的時間の拡張"が報告され、動く刺激の方が静止した刺激より主観的に長く感じられることも実証されている。こうした知見は、主観的時間が脳内処理や刺激統合によって生成される心的構造であり、物理時間とは異なる層をもつことを示して
いる。ベルクソンは、この二重構造を区別できずに時間を空間化してしまうことが、経験世界の本質を誤解する原因になると批判した。速度の知覚のずれとは、外的時間と持続としての時間が異なる原理で成立していることを示す、日常的でありながら深い哲学的現象なのである。
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