Wednesday, December 10, 2025

小野十三郎――社会の激動を詩に刻み革新を追い続けた批評的詩人 1920-1960年代

小野十三郎――社会の激動を詩に刻み革新を追い続けた批評的詩人 1920-1960年代
小野十三郎(1903-1996)は1920年代の社会変動の中で詩壇に登場し社会性と実験性を併せ持つ独自の詩風を築いた詩人であり批評家である。大正デモクラシーの余韻が残る一方で労働運動や階級対立が激化しプロレタリア文学運動が勢いを増した時代において小野は社会の矛盾に目を向けながらも単なる政治的スローガンに還元されない複層的な詩の在り方を模索した。

初期詩には都市化がもたらす疎外や不安階級矛盾への鋭い感受性が表れ観察と言語実験を組み合わせた表現によって社会の陰影を描き出した。1930年代に入り治安維持法体制が強まると多くの文学者が転向や沈黙を迫られたが小野は創作の焦点を社会批評から言語への探究へと深め短歌俳句の革新運動にも携わった。定型を揺さぶり現代語的感覚を流し込む試みは日本語詩型の可能性を大きく広げた。

戦後は批評家としての活動を本格化させ文化の再建や言語表現の再構築を問い続けた。冷静な分析力で文学の役割を再考し1950-1960年代の高度成長期には豊かさの陰に生じる疎外や価値観の変容にも鋭く反応し詩で応答した。小野十三郎の価値は社会を見つめる眼と言語を更新しようとする意志が一貫して結びついている点にあり現代詩の革新運動の重要な基盤となっている。

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