光触媒塗料による大気中 NOx 低減(通産省工業技術院/オキツモ・1990年代)
一九九〇年代の日本では都市部の大気汚染が深刻化し、とくに自動車由来のNOxと光化学スモッグが社会問題となっていた。環境基準の達成率が低迷し、ディーゼル車規制や都市環境改善技術の開発が急務とされた時代である。こうした状況の中で通産省工業技術院とオキツモが共同開発した光触媒塗料は都市空間そのものを浄化装置へと変える革新的技術として登場した。光触媒である二酸化チタンに太陽光が当たるとNOxが硝酸へと酸化され、雨によって洗い流されることで塗膜の浄化能力が再生する。この自己再生型特性は従来の吸着材やフィルター方式にはない大きな強みで維持管理負荷の小ささが高く評価された。
試験では二百平方センチメートル程度の塗膜でNOx濃度一ppmを二十四時間処理し約八〇パーセントという高い除去率を示した。当時の都市大気浄化技術としては突出した性能であり高速道路周辺、トンネル内壁、ビル外装など広範な応用可能性が指摘された。また光触媒研究は本多-藤嶋効果から二〇年余を経て応用段階に入りつつあり、このNOx低減塗料は実用化の端緒として国際的にも注目された。欧州におけるNO2警報の多発や都市環境悪化も追い風となり光触媒建材は環境改善技術として世界的に研究が進んだ。
九〇年代末以降はセルフクリーニング外壁材や舗装材にも応用が広がり都市の空気を浄化する新しい素材群の基盤が形成された。光触媒塗料によるNOx低減技術はその起点として重要であり政策、建材産業、都市環境工学をつなぐ象徴的存在であった。
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