Saturday, May 3, 2025

手のひらの民主主義――1970年代『暮しの手帖』と生活を測る声

手のひらの民主主義――1970年代『暮しの手帖』と生活を測る声

1970年代、日本が高度経済成長の只中にあった頃、テレビや電化製品は「豊かさ」の象徴として家庭に入り込み、企業は華やかな広告で夢を売り続けていた。だがその一方で、商品が本当に安全なのか、必要なのかを問い直す声もまた静かに広がっていた。『暮しの手帖』が行っていた商品テストは、そうした声を形にしたものであり、単なる消費情報ではなく、市民による生活の監視であり、選択の自由を守るための政治的行為であった。

消費者連盟の竹内直は、「アメリカの消費者同盟のように、もっと品目を増やしてほしい」と語った。それは、情報の非対称性――つまり企業が一方的に「良さ」を語る世界に対して、生活者自身がその実態を測る必要があるという願いの表れだった。1930年代から始まったアメリカの消費者運動と同じように、日本にもまた、市民の目で商品を吟味しようという小さな革命が根づきつつあったのだ。

花森安治は、その革命の旗手だった。広告を拒否し、忖度なく製品を評価する。炊飯器や洗剤、洋服や家具といった「暮らしの道具」は、花森の手にかかると単なるモノではなく、社会の断面図として浮かび上がった。生活は政治であり、選ぶという行為には倫理がともなう。彼の編集姿勢には、メディアが市民に何を伝えるべきかという哲学が一貫して流れていた。

『暮しの手帖』のテスト記事を読むとは、知らないままに従うのではなく、自分で問い、比べ、判断するという行為に参加することだった。それは、生活者一人ひとりが主権者であることを思い出す儀式でもあった。手のひらに載る家電製品を通して見えてくるのは、実はこの社会がどんな理屈で動いているのかという、もっと大きな問いだったのである。

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