暗号の牙――ゲームオーバーゼウスとクリプトロッカーが穿つ経済の暗渠(2014年6月)
2014年、英国の犯罪対策機関は「ゲームオーバーゼウス」と「クリプトロッカー」という危険なウイルスによる広範な被害の可能性に警鐘を鳴らした。これらのウイルスは、個人や企業の銀行口座から不正にお金を引き出す能力を持っており、もし早急に対応しなければ、2週間以内に被害が広がる恐れがあるとされた。当局は、海外の関係機関と連携し、これらの攻撃を一時的に封じ込める作戦を実施したが、その効果には限界があった。
ゲームオーバーゼウスは、偽のメールや添付ファイルを開かせることで感染する。感染すると、ネットバンキングの利用者情報が盗まれ、それをもとにお金が引き出されてしまう。一方、クリプトロッカーは、パソコン内のファイルを勝手に暗号化し、「元に戻してほしければお金を払え」と要求してくる。拒否すれば、すべてのファイルは使用できなくなる。
こうした事件は氷山の一角にすぎない。米国の調査機関が発表した報告では、この種の犯罪による世界全体の年間被害額は、最大で60兆円近くにのぼるとされている。たとえ控えめに見積もっても、被害総額は45兆円以上。これは多くの国の年間予算をはるかに超えており、私たちが直面する危機の大きさを物語っている。
金融に関する被害は特に深刻である。たとえば、ある米国の量販店が攻撃を受けた際には、銀行側がカードの再発行や対応に追われ、2千億円以上の損失を出した。中東でも数時間で数十億円が盗まれた事件が発生している。日本でも、1年あたり100億円前後の被害が出ていると報告されている。
クリプトロッカーのようなウイルスによる被害も看過できない。会社が業務を再開するためにかかる費用や、信用を取り戻すための対応など、表に見える金額以上の負担がかかる。たとえ犯人がすべての情報を使えなかったとしても、被害にあった側は「すべて使われた前提」で動かねばならず、その負担は甚大である。
サイバー犯罪は、経済そのものにも影響を与える。報告書では、インターネットが年間200兆円から300兆円の価値を生んでいる一方で、その15~20%がこうした犯罪により奪われているとされている。つまり、これは目に見えない税金のようなものであり、新しい技術開発への投資意欲をそぎ、成長を妨げている。
この問題は、もはや企業の内部対策だけでは解決できない。国の安全や企業の競争力とも直結しており、情報の共有や国際的な協力が不可欠である。盗まれたのが知識や設計図であれば、その影響はさらに長く、深く続いていく。
特に注意すべきは、こうした被害が「見えない」ことにある。企業は何が盗まれたかも分からず、損失を小さく見積もる傾向がある。だが、じわじわと経済の根元を侵食していくサイバー犯罪は、放っておけば私たちの未来そのものを蝕んでいく。もし対策を怠れば、私たちは知らぬ間に、多くを失うことになるだろう。
No comments:
Post a Comment