CO2削減、訳効果、原油高騰や炭素税など将来的に予想される燃料へのリスクなどを背景に、先進的な企業の中で、風力や太陽光など自然エネルギーの導入・活用機運が高まりつつある。
だが、こうした新エネルギー設備は初期投資が必要なうえ、立地条件に大きく左右され、利用したくとも自前で導入するにはリスクが大きい。
こうした中、風力発電など自然エネルギーの発電事業者と、企業などユーザーを仲介する「グリーン電力証書」事業を展開しているのが日本自然エネルギー株式会社。
欧州などで普及しているものの、日本では新たな試みとなるビジネスだが、当初の予想以上の成果をあげつつある。
●きっかけは社内公募プロジェクト。
同社は、東京電力や関西電力、商社など11社からの出資を得て設立された。
きっかけは99年7月、東京電力が新規事業検討の一環として「風力発電プロジェクト」を設置し、要員を社内公募したことだった。
この公募に真っ先に手を挙げたのが当時、営業畑にいた正田剛さんだった。
「電力自由化で価格競争に走るだけではおもしろくない。
なにか新たな電力市場を開拓できないだろうかと、前から考えていたのが風力発電でした」。
96年から2年間、財団法人日本エネルギー経済研究所に派遣されて、欧州各国の新エネルギー政策などを研究したことも正田さんがプロジェクトに参加する動機となった。
だが、風力発電の発電コストは従来の化石燃料による電力に比べて割高だ。
社内でも「コスト高の電力を購入するニーズは無いのではないか」との雰囲気があり、風力発電を事業として成立させるのは難しそうに見えた。
そうした折、00年2月にソニーから東京電力へ風力発電を利用したいとの申し入れがあった。
「コストだけではなく目に見えない環境価値にもニーズはある」ことが見えてきたことで、一気に会社設立にまで発展、言いだしっぺである正田さんが社長に就任することとなった。
●グリーン電力を市場化。
風力発電によるグリーン電力を、ポランタリーな考えからではなく、環境付加価値として市場化させるために構築したのが「グリーン電力証書」だ。
同社の展開する「グリーン電力証書」事業の仕組みはシンプルだ。
まず、自然エネルギーによる電力を活用したいユーザー(企業)が同社にkWhあたり約4円を支払い発電を委託、「グリーン電力証書」を受け取る。
同社はそのうちの約3.5円をユーザーに代わって風力発電事業者に支払い、発電を再委託する。
この差額分約0.5円が仲介料、証書発行料として同社の収益になる。
発電を委託された風力発電事業者は、発電した電力を地域の電力会社に約6kWhで売り、ユーザーは近くの電力会社から従来通り電力の供給を受ける。
つまりユーザーは通常の電力料金を支払いつつ、日本自然エネルギーに対してkWhあたり4円のプレミアム料金を支払うことで、風力発電による電力という付加価値とその証としての証書を買う。
通常、電力会社では風力発電の電力購入価格を9〜11円台に設定している。
だが同社の仕組みでは、それを約6円kWhで売電する代わりに、差額分は付加価値を認めたユーザーがコストを負担することで、目に見えない環境価値が市場化されるというわけだ。
「風力発電に適した風の強い場所と電力を必要としている場所とは一致しない。
そのギャップをつなぐのがこの仕組みで、環境対策ツール提供事業ととらえています」仕組みとしては明快だ。
だが、仕事としてはなかなか骨が折れる。
企業の環境部などに営業をしてユーザーを確保しつつ、並行して風力発電事業者を公募する。
同社では、風車を1本でも多く普及させたいとの考えから、新規の風力発電事業者との契約を進めてきた。
これまでに「グリーン電力証書」システムで、銚子屏風ヶ浦風力発電所(千葉県、1500kW)、能代風力発電所(秋田県、24基計1万4400kW)、田代平風力発電所(秋田県、9基計7650kW)が建設された。
また事業化にあたって、「グリーン電力証書」の認証業務などを請け負う第三者機関「グリーン電力認証機構」が同社の呼びかけで設立された。
この機関には三井物産などが出資するイレックスや、東京短資や三菱商事が出資してCO2の排出権取引を手掛けるナットし、グリーン電力証書システムの仕組み、企業ランドで展開して好評を博しているほか、ニューヨークで開催されたNYホームテキスタイルショー2003でも、初出場ながらこうした環境経営の取り組みが評価されベストプロダクト章を受賞するなど、目覚しい効果をあげている。
さらに、省エネルギー・CO2削減に向けたツールとしてのニーズも増えそうだ。
改正省エネ法では一定規模以上の工場や事業所に対し、毎年1%以上の省エネルギーを勧告するとともに、報告書提出を義務づけている。
しかし、すでに対策が進んだ工場などでさらなる省エネルギーを進めるのは簡単ではない。
同法では、使用電力をクリーンエネルギーによる電力に置き換えることでその分を削減実績として認めている。
残念ながら現段階では同社のシステムによって購入した証書は、省エネ法による対策実績として認められていないが、この点については経済産業省への要望を続けている。
「当初はもっと具体的にCO2削減義務など社会制度が整備されることを見込んでいましたが、それを抜きにしても予想以上に多くのユーザーがグリーン電力に価値を見出してくれた。
現状では風力発電だけですが、将来的にはそのほかの自然エネルギーも扱っていきたいですね」(正田社長)
同社では、グリーン電力証書事業のほか、風力発電導入に向けた調査・コンサルティング事業、ソリューション提案事業、企業・大学のイベントにおける展示受託などの事業も展開している。
さらには、自らの手による上水道などを活用したマイクロ水力発電事業への参入も予定している。
正田社長はこう語っています。
「自然エネルギーは、コストも割高で、それだけで全てのエネルギー需要を満たすのは難しい。
だからといってばっさりとムダと言い切れるものではない。
少しずつでも市場の裾野を広げること、価値を認める人がきちんと選べる仕組みが重要だと思います」。
同社は、そうした新たな価値を認める人たちに支持され、ソリューションを提供する会社として先頭を走り始めています。
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