PCB汚染 - 日本近海 - 1998年5月
1998年に行われた愛媛大学の調査によると、日本近海の海洋生物から高濃度のPCB(ポリ塩化ビフェニル)やDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)といった有害化学物質が検出されました。特に、北海道沖と東シナ海沿岸で採取されたシャチやイルカなどの海洋哺乳類からは、脂肪1グラムあたり400マイクログラムものPCBが検出され、この濃度は他の海洋生物に比べて極めて高い数値です。これは食物連鎖を通じて有害物質が生物の体内に蓄積される「生物濃縮」の影響であり、上位の捕食者ほど高い濃度が検出される傾向にあります。
PCBは、かつて絶縁体や冷却材として広く使用されており、1960年代から1970年代にかけて、日本国内でも多くの工業製品に利用されました。特に、三井化学や昭和電工といった化学企業がPCBを製造・使用していたことで知られています。しかし、PCBは非常に安定した化学構造を持ち、自然界で分解されにくいため、環境中に長期間残留し、深刻な汚染を引き起こします。
日本では、1972年にPCBの製造と使用が禁止されましたが、禁止前に製造された製品や廃棄物が適切に処理されず、河川や海洋への不法投棄が続いた結果、環境中に残留しているケースが多くあります。特に、日本近海では東京湾や瀬戸内海など、工業地帯に隣接する海域でPCB濃度が高いことが指摘されてきました。これらの地域では、工業廃水によりPCBが海に流出し、底質に蓄積していると考えられます。
さらに、PCBの環境への影響は日本国内に留まらず、アジア全域にも波及しています。例えば、韓国や中国の沿岸部でもPCB汚染が報告されており、国境を越えた環境問題となっています。これには、他国からの違法廃棄物輸出も関与していると見られ、バーゼル条約による規制が強化される必要があると指摘されています。
PCB汚染は海洋生態系に重大な影響を与えています。海洋生物の健康被害だけでなく、これらの生物を食物として摂取する人間にもリスクが及び、特に、妊婦や子供に対するPCBの影響が懸念されています。PCBは発がん性や神経毒性を持つことが確認されており、体内に蓄積されると長期にわたり健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
日本政府はPCBの廃棄物処理を進めていますが、依然として処理が遅れており、環境中に残留しているPCBの除去が喫緊の課題となっています。環境省によると、2030年までにPCB廃棄物の完全処理を目指す計画が進められていますが、現時点で約20%の廃棄物が処理されていないとされています。
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