Tuesday, March 25, 2025

欺瞞の都・キーウ 〜2000年代を駆け抜けたサイバー詐欺帝国〜

欺瞞の都・キーウ 〜2000年代を駆け抜けたサイバー詐欺帝国〜

ウクライナ・キーウに本社を構えていたイノベーティブマーケティング社は、2000年代半ば、世界的なサイバー犯罪ネットワークの中核として活動していた企業である。シャイレルシュクマル・サム・ジャインとビョルン・スンディンによって設立され、短期間で急成長を遂げた。

同社の主力事業は、「WinFixer」「XP Antivirus」「Antivirus 2009」などの偽セキュリティソフト(スケアウェア)の開発と販売だった。これらは、ユーザーのPC画面に「ウイルスが検出されました」などと警告を出し、不安を煽って有料ソフトの購入を促すものだった。購入者は、実際には何のウイルス除去機能も持たないソフトを手に入れ、金銭のみならず個人情報までも奪われたケースもあった。

従業員数は600人を超え、業務は開発、広告、顧客対応などに細分化され、60カ国以上に顧客を持つグローバル企業の様相を呈していた。社内には活気があり、豪華な社員旅行も定期的に開催され、表面上は合法的なIT企業そのものだった。

だが、その繁栄を支えたのはウクライナ国内のサイバー犯罪に対する規制の弱さだった。当時、電子犯罪に関する法整備が不十分であり、国際的な詐欺行為であっても国内での積極的な捜査は行われなかった。この法の盲点が、イノベーティブマーケティング社のような詐欺企業の成長を許したのである。

2008年、ついにアメリカ連邦取引委員会(FTC)が同社を詐欺で提訴。資産の凍結と、関連ドメインの差し止めが命じられた。同社はその後急速に活動を停止し、閉鎖へと向かった。シャイレルシュクマル・サム・ジャインとビョルン・スンディンは現在もFBIにより国際指名手配中であり、事件の全貌はいまだ霧の中である。

華やかさの裏に巨大な欺瞞を隠し、2000年代を駆け抜けたこの企業は、デジタル時代の闇と脆弱な法制度の象徴として、今も記録に残り続けている。

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