東シナ海での違法農薬残留問題 - 1999年6月
国立環境研究所の調査によると、東シナ海では禁止されている有機塩素系農薬、特にヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)が確認されています。この物質は、かつて中国や東南アジアで広く使用されていた農薬の一種ですが、現在では多くの国で使用が禁止されています。しかし、調査の結果、奄美大島の西約200kmの海域で、海水1リットルあたり65ピコグラムの濃度でHCHが検出されました。また、さらに深刻な濃度が東シナ海中央部で発見され、海水1リットルあたり458ピコグラムに達しており、環境への影響が懸念されています。
特にこの農薬残留の原因として指摘されているのは、長江(Yangtze River)からの流入です。長江は中国最大の河川であり、その流域では農業が盛んに行われており、かつてHCHが広範に使用されていました。これにより、長江流域の農業活動から排出された農薬が河川を通じて海洋に流出し、上海や南京などの工業都市を経由して、最終的に東シナ海まで到達していると考えられています。
さらに、この問題に関連する興味深い点として、中国の農業企業や地方自治体の対応が不十分であったことが挙げられます。特に、農業用水として使用される水源への影響や、漁業資源への影響が深刻化していることが報告されています。大連(Dalian)や青島(Qingdao)など、中国の沿岸部では海洋汚染が進行し、水産物の安全性にも影響が出ています。
珍しい点は、HCHが直接的に違法に使用されているわけではなく、過去の使用によって引き起こされた汚染が現在も持続していることです。このような「残留農薬」の問題は、過去に大量使用された農薬が長期間にわたって環境中に残り続け、海洋生態系に影響を与えている点で、他の農薬汚染問題とは異なります。
この問題により、東シナ海周辺国では、農薬管理と海洋汚染対策の国際的な協力が求められており、日本や中国、韓国を含む各国が共同で対策に取り組む必要があります。
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