ユヴァル・ノア・ハラリの『21世紀の人類のための21の思考』の1「幻滅」の話です。
自由主義への幻滅
20世紀には自由主義、ファシズム、全体主義、共産主義といったイデオロギーがありましたが、1991年のソ連崩壊によって共産主義が衰退し、自由主義が優勢となりました。2018年には自由主義が唯一の勝者と見なされ、「歴史の終わり」という言葉で象徴される時代が訪れました。しかし、その後、2008年にリーマン・ショックによる「グローバル金融危機」、そして気候変動による「生態系の崩壊」といった大きな事件が自由主義に対する疑問を生み出しました。これらの問題は「格差の拡大」を促進し、自由主義の限界が浮き彫りになりました。
現代では、特に「格差の拡大」が深刻です。富裕層はますます富を蓄え、貧困層との格差は埋めがたいものとなっています。例えば、AmazonやAppleのような巨大テクノロジー企業の創業者たちは、パンデミックの間にも資産を増やしました。2021年時点でAmazonのジェフ・ベゾスの資産は1770億ドルに達し、Appleの時価総額は2兆ドルを超えました。これに対して、低所得層はパンデミックの影響で失業や経済的困難に直面し、貧富の格差は急速に拡大しています。技術革新と自動化が進む中、労働者層は職を失い、経済的格差はさらに深まっています。
例えば、バングラデシュやインドなどの途上国では、気候変動が農業に壊滅的な影響を与えています。バングラデシュの沿岸地域では、ガンジス川のデルタ地域が海水の浸食を受けて農地が塩害にさらされ、農業が不可能になっています。農村部の住民は都市に流れ込み、貧困層がますます都市部に集中しています。インドの農村部でも干ばつや降水パターンの変化により農業が打撃を受け、多くの農民が都市に出稼ぎに行く状況が広がっています。2019年にインドのマハラシュトラ州で発生した深刻な干ばつでは、農業に依存する何千もの家庭が食糧不足に直面し、経済的な苦境に立たされました。
気候変動の影響は特に貧困層に対して深刻です。たとえば、海面上昇による洪水や干ばつは途上国の農業に壊滅的な影響を与え、食糧危機や移住の増加を引き起こしています。アフリカのサヘル地域では、乾燥化が進み、農業が立ち行かなくなり、多くの住民が移住を余儀なくされ、国際的な難民問題が深刻化しています。一方、富裕層はこうした環境変動に対応する手段を持っており、シリコンバレーの幹部たちはニュージーランドなどの避難先を購入し、社会不安や気候危機に備えています。
技術的進歩による「技術的破壊」も格差の拡大を助長しています。自動化技術やAIの発展により、多くの職が機械に取って代わられています。例えば、Teslaの自動運転技術やAmazonの倉庫に導入されているロボット技術が、従来の労働者が担っていた仕事を機械に置き換えています。これにより、低所得層の雇用機会が減少し、貧富の差はさらに広がっています。
また、ハラリが指摘する「神性」や「超人」を追求する技術的進歩も格差を広げる要因です。富裕層はバイオテクノロジーやAIを利用して自らの健康や寿命を延ばし、さらには肉体や精神を強化しようとしています。例えば、CRISPR技術を利用した遺伝子編集は、富裕層の子孫がより健康で知能が高くなることを可能にし、新たなエリート層を生み出す可能性があります。これに対して、貧困層はこうした技術にアクセスできないため、技術による格差が生まれます。
特に「生態系の破壊」は貧困層に最も深刻な打撃を与えています。途上国では、気候変動により農業が不可能になり、食糧不足が広がっています。これにより貧困層は生きるための手段を失い、移住や都市部のスラムに流れ込むケースが増えています。バングラデシュの沿岸地域では、農業が塩害で壊滅し、住民が住処を失っています。モンサントなどの企業が提供する遺伝子組み換え作物は、一部の大規模農家には恩恵をもたらしますが、小規模な途上国の農家はこれらの技術にアクセスできず、むしろ負担が増しています。
こうした状況下で、自由主義は「格差の拡大」と「技術的破壊」「生態系の破壊」という課題に直面しています。自由主義は経済的な成功をもたらしたものの、気候変動や技術革新に対する十分な解決策を提供できていません。その結果、多くの人々が自由主義に対して「幻滅」を感じ、これまでの自由主義や資本主義がもはや現代の課題に対応できないと考え始めています。
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