2024年9月13日金曜日

幻滅(2) - 神性の追求がもたらす人口増加と格差拡大 - ユヴァル・ノア・ハラリ「21世紀の人類のための21の思考」

「ユヴァル・ノア・ハラリの『21世紀の人類のための21の思考』の1『幻滅』」 「神性を追及する」 神性を追及するという傾向が続く限り、21世紀の終わりごろまでには人口が増え続けるでしょう。例えば、2023年の時点で世界の人口は約80億人に達しており、特にアフリカのナイジェリアやインドなどでは急激な人口増加が予想されています。ナイジェリアは2050年までに4億人を超えると予測され、インドも同じ時期に世界最大の人口を抱える国になると見られています。こうした人口爆発の状況では、自由主義、すなわち個々人の意思を尊重する自由主義によって、この成長を抑制することは極めて難しいでしょう。人口の急増は、生態系の破壊を加速させる大きな要因でもあります。 この問題は「人間中心主義」と密接に関わっています。人間中心主義の視点では、どこで境界線を引くのか、つまり人間と動物、植物の間にどのような線引きをするかが問われます。宗教的な観点も関わりますが、結果的に人間が優先され、動物や植物は「他者」として扱われることが多くなります。こうした考え方では、誰を守り、誰を犠牲にするかという選択が行われ、人間が優先されるため、生態系が破壊されてしまうのです。 古代の仏教徒たちは、人間だけでなく動物や植物を含めた広範な線引きを提唱していました。この考え方は、現在でも非常に重要です。家畜の大量生産や穀物の大量栽培は人間中心主義の裏返しと言えますが、この線引きをより広げる必要があるのです。 技術的破壊の話に戻ります。ホモ・デウスの問題で指摘されているように、寿命を延ばし、人間の内部を変え、「神になる」発想が人間には根付いています。ここで言う「神性」とは、自然や技術を完全にコントロールし、寿命を無限に延ばし、病気を克服し、知性や能力を向上させることです。つまり、神のように生き、神のようなスケールで存在することを意味しています。人間は、自らが全知全能に近づくことを目指しているのです。 しかし、こうした「神性」を追及する行動は、ファシズムや全体主義に近い側面も持っています。汎用人工知能にすべてを委ねるという発想は、ニーチェやドストエフスキーの「超人」思想に通じており、人間が超人や動物の架け橋として犠牲にされる可能性を含んでいます。 技術的破壊の最大の問題は、AIやバイオテクノロジーの進化によって、人間の役割が急速に減少し、「人間の不必要化」が進むことです。支配階級やエリート層はかつて労働力として人間を必要としていましたが、AIや自動化技術が進展するにつれて、人間は労働の場から排除されつつあります。これにより、労働者としての存在意義が失われ、社会的役割も消えていくのです。 例えば、アメリカや中国では、製造業における工場の自動化が急速に進んでおり、AI技術を活用した物流や農業のロボット技術が、かつて人間が担っていた仕事を次々と置き換えています。汎用人工知能(AGI)や高度なバイオテクノロジーが発展すれば、さらにクリエイティブな仕事や知識労働にも影響を与え、「人間が必ずしも必要ではない」世界が訪れるかもしれません。 このように、経済活動や生産のプロセスから人間が除外されると、社会全体で「存在意義の喪失」という重大な問題が生じます。かつて搾取されることで社会にとって必要だった人間が、もはや搾取すらされない状況では、自らの役割を見失い、存在意義が希薄になってしまいます。AIの進化によって、労働市場が縮小し、職を失った多くの人々は経済的価値を失い、社会から見放される危険性に直面しています。 特に、低所得者層や発展途上国の人々が直面する雇用の喪失は深刻です。AIや自動化の導入によって、単純労働は急速に消えつつあり、特にナイジェリアやインドのような急激に人口が増加している国々では、経済的価値を持つ人々の数が減少し、失業者が増加しています。職を失った人々は、政治的権利を持っていても経済的な力を失い、社会的地位が低下しています。この現象は、トランプ政権下のアメリカやブレグジット後のイギリスで顕著に見られ、経済的不平等が引き起こす政治的な不安が広がっています。  

最終的に、AIや技術の巨人たちが経済を支配し、従来の政治システムや経済構造が変わる中で、人間はその役割を次第に失い、存在意義を喪失する時代が到来するかもしれません。 

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